1on1に潜む“誤解”と“可能性”

本当に大切なのは「相互理解」
こんにちは、relate株式会社ファウンダーの吾妻聡平です。
ここ数年、1on1ミーティング(以下、1on1)が多くの企業で注目されています。「部下との信頼関係を築こう」「成果を引き出そう」として導入する企業は多いですが、実際のところ「ただ進捗を確認するだけ」「マニュアル通りに聞く項目が決まっているだけ」で終わっているケースも少なくありません。
本記事では、1on1の目的を改めて見直し、“相互理解”を促す新しいアプローチについて考えてみたいと思います。FFS理論というフレームワークを活用し、「なぜあの人はああいう行動を取るのか?」を解きほぐすことで、上司と部下にとどまらない“組織全体の関係性”を変えるヒントを探っていきましょう。
1.なぜ1on1が必要と言われるのか
上司と部下が一対一で対話する意義
1on1は、主に上司と部下が定期的に一対一で面談し、コミュニケーションを深める仕組みとして知られています。ヤフーが書籍を通じて広めたこともあり、日本のスタートアップや大企業でも導入するところが増えました。
その背景として、多くの企業が「部下のパフォーマンスを引き出し、気づきを与えたい」「エンゲージメントを高めたい」という狙いを持っています。管理職が忙しくても、最低限1対1で部下と向き合う時間を確保しよう――これは理にかなった発想と言えるでしょう。
フィードバック入門と1on1
1on1が流行した裏には、“フィードバックの重要性”を説く書籍や提言が影響している面もあります。「気づき」を与えるための対話ができれば、部下は自発的に成長し、組織全体のパフォーマンスが上がる。これは確かに理想像として魅力的です。
しかし、実際の現場では「なんとなく進捗確認だけして終わり」といった声も少なくありません。1on1が本当にうまく機能するには、いくつか大切な視点が抜け落ちている可能性があります。
2.1on1が“機能しない”理由:個性の違いとバイアス
自分が「正しい」と思う方法が、他人にも合うとは限らない
SNSや研修などで紹介される1on1のやり方は、「上司の体験談」を元にしたものが多いように見受けられます。例えば「任せるのは覚悟がいる」「傾聴が大事」といったアドバイスが散見されますが、これはある個性の人にとっては真理でも、別の個性の人には当てはまらないことがあるのです。
例えば、凝縮性の高い部下が組織課題を提起したことに対して、傾聴して「なるほど」とニュートラルな態度をとるだけでは、かえって部下との溝を深める結果となります。
相互理解より“一方向の指導”がメインになりがち
1on1というと、どうしても「上司が部下にフィードバックする」「部下の相談を聞く」という一方向の構図になりやすいです。けれど、実際に高い成果を出しているチームを見ると、部下もまた上司の個性をよく理解し、気を使ったり助けたりしていることが多い。
つまり、本来は上司と部下が相互理解を深めることが重要なのに、「上司→部下」だけを強化している現場がほとんど。このアンバランスが、1on1を形骸化させる大きな要因のひとつと考えられます。
3.「フィードバックすればOK」では足りない?相互理解の重要性
お互いに「見えていない背景」が存在する
ある企業で起きた事例ですが、マネージャーの行動が部下から見ると「適当なやり方で無理を押し付ける」と感じられ、関係性が悪化したケースがありました。ところが、マネージャー本人は「自分なりに責任を背負って社内を守らなきゃいけないし、むしろ部下を不安にさせまいとしていた」だけだったりします。
相手に言っていない、あるいは自分自身でも意識していない背景が表面化しないままだと、1on1でいくら指摘やアドバイスを交わしてもズレたまま。実は「なぜそんな行動をしているのか」を知ることこそが、本質的な解決につながるのです。
言いたいことが言えない→不満の“持ち腐れ”現象
日本人は特に、保全性の高い個性が多いとも言われます。すると、「1on1でフィードバックしよう!」と言われても、仲間と波風を立てたくない心理や「わざわざキツイことは言いたくない」という気持ちが働き、肝心なところは結局何も言えないままになりがち。
結果として、上司も部下も「これ、おかしいんじゃないか?」「もっとこうしてほしい」と思っていても言葉にしない。“沈黙”でやり過ごし、1on1がただの進捗報告タイムに終わってしまう――そんな場面を多くの企業で見かけます。
4.1on1ブームの“落とし穴”――実践と理想のギャップ
真面目な管理職ほど空回りしやすい
1on1が注目されることで、真面目な管理職ほど「頑張って部下を指導しなくちゃ」「アドバイスしなくちゃ」と焦りやすくなります。ところが、部下は「別にそこを話したいわけじゃないのに」「あの人に指導されると余計ストレス……」と思っているかもしれない。
また「何を話せばいいのかわからない」「毎週30分も1on1する時間が取れない」という現実的な悩みも多く、“やらなきゃいけない”という義務感が先行して挫折してしまうケースも少なくありません。
実は“1on1”という形式にこだわらなくてもいい?
さらに、実際に試している企業の声を聞くと、「むしろ一対一だと本音を言いづらい」「上司と部下だけでは難しいネガティブ感情がある」という例が多数あります。そこに第三者が入ったり、小グループで対話したりすると、意外なほど本音を引き出しやすくなることも。
つまり、1on1はあくまで対話の形式の一つであり、万能ではないのです。たとえば3~4名の場で、相互に「なぜその行動をとるのか」を確認し合う方が合っている人も大勢いるでしょう。1on1=正解ではなく、“対話のチャンネル”をいくつ持つかが重要なのかもしれません。
5.まとめ:1on1は形よりも「何を目的に、どう対話するか」
- 1on1はもともと「パフォーマンスを引き出し、フィードバックで部下の成長を促す」目的で広まった
- しかし、実際には個性の違いやバイアスが大きく影響し、上司→部下の一方向だけではうまくいかない場合も多い
- 大事なのは相互理解――「なぜそんな行動をとるのか」「本音は何なのか」を、上司と部下が共に共有する
- そのための形式は必ずしも“1対1”に限らず、グループ対話や第三者を交えた場など様々な可能性がある
1on1自体を否定するわけではありませんが、「1on1こそがすべての解決策」と考えるのは危険です。実現したいのは“対話を通じた相互理解”であり、その具体的なやり方は組織や人によって変わるはず。
ぜひ「1on1にこだわりすぎず、どうすれば“本音を言いやすい場”を作れるか」という発想で取り組んでみませんか。実際の現場で試行錯誤しながら、自社に合った“新しい対話の形”を見つけることが、組織力アップへの一歩になるでしょう。
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「1on1がうまくいかない」「形骸化している気がする」と感じたら、ぜひrelate株式会社へご相談ください。私たちが実際の企業で見てきた“対話のリアル”を踏まえたアドバイスやワークショップをご提案できます。
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