中長期的な組織成長を牽引する「人の見立て」とHRBPの役割

こんにちは、relate株式会社ファウンダーの吾妻聡平です。
「採用した人材を、本当に活かしきれているだろうか?」 多くの経営者や人事責任者が、このような問いを抱えています。事業計画の達成に向けて多大なコストをかけて採用活動を行う一方で、入社後の育成や登用が場当たり的になってはいないでしょうか。
社員の成長は、入社後の「経験の質とタイミング」に大きく左右されます。そして、その最適な機会提供の鍵を握るのが、個々の社員のポテンシャルや特性を深く理解する「人の見立て」です。これは単なる評価ではなく、その人の未来の可能性までを見通す、解像度の高い理解を指します。
今回は、中長期的な組織成長の要となる「人の見立て」と、それを推進するHRBP(HRビジネスパートナー)の役割に焦点を当て、いかにして戦略的な人材育成を実現するかに迫ります。
1. 「人の見立て」の重要性:なぜ今、この視点が必要なのか
多くの企業で、人材戦略の力点が「採用」に置かれすぎています。しかし、「人材プールをリッチにする」という本来の目的は、採用後の育成と登用によって初めて達成されるのです。本当の勝負は採用後から始まります。採用した人材のポテンシャルを最大限に引き出し、会社の成長エンジンへと変えるためには、以下の問いに「YES」と答えられなければなりません。
- 最適なタイミングで挑戦的な仕事を与えられているか?
- 個性に合わないミッションを押し付け、ポテンシャルを潰していないか?
- そもそも、その人材の「伸びしろ」を会社として把握できているか?
これらの問いに応えられない状態は、人材が“育つ”のではなく“消耗”している危険なサインです。社員は自身のキャリアに行き詰まりを感じ、会社は貴重な人的資本を失っていきます。この「育成なき人材戦略」こそが、多くの企業でタレントマネジメントが機能しない根本原因だと言えるでしょう。
中長期的に会社の目標を実現できる強い組織を作るには、場当たり的な人員配置ではなく、個々人に何を期待し、どう成長を支援していくかという「人の見立て」が、極めて重要な戦略的要素となるのです。
2. タレントマネジメントの課題:「人」に関する情報の解像度不足
「人の見立て」ができていない組織では、タレントマネジメントが機能不全に陥ります。その最大の原因は、「人」に関する情報の解像度不足です。個々人が今どんな活躍をし、何に悩み、どのようなポテンシャルを秘めているか、そのリアルな情報が把握できていないのです。
この情報不足は、善意からであっても、社員と会社の双方にとって不幸な「機会のミスマッチ」を引き起こします。
- ケース1:優秀なプレイヤーを、管理職にして潰してしまう
現場で高い成果を出すプレイヤーが昇進候補になりがちです。しかし、例えばFFS理論で見ると、個人の成果を追求する力と、チームをまとめ人を育てる力は全くの別物です。本人はプレイヤーとして輝きたいのに、他にキャリアパスがないからと管理職に登用され、苦手なマネジメントに疲弊する。結果、部下の成長も阻害され、会社は優秀なプレイヤーとマネージャーを同時に一人失うという最悪の結末を迎えます。
- ケース2:同じ場所で「塩漬け」にし、成長機会を奪う
例えばFFS理論における「保全性」が高い人材は、一つの業務を深く掘り下げ、改善し続けるのが得意です。その強みを評価され、何年も同じ部署で同じ役割を任され続ける。一見、適材適所に見えますが、若いうちに多様な経験を積んで視野を広げる機会を奪い、気づけば他の業務に対応できない「塩漬け」人材になってしまいます。「もっと早く別の経験をさせていれば、さらに化けたのに」という後悔は後を絶ちません。
これらの悲劇は、人事情報が「静的なデータベース」のままで、個々の社員の「生きた情報」が更新されていないために起こるのです。
3. HRBPの真価:現場支援を通じた「人の見立て」の深化
こうした現場のミスマッチを防ぎ、戦略的な人材配置を主導する存在が、HRBP(HRビジネスパートナー)です。本来HRBPは、事業責任者のパートナーとして、誰よりも深く社員を理解し、事業成長に貢献する人事施策を打つ「部門CHRO(最高人事責任者)」のような役割を担います。
しかし、日本ではHRBPがその真価を発揮できていません。現場の事業部の方が力が強く、人事から来たHRBPに発言権がなかったり 、戦略的な役割ではなく評価や労務問題に対応する「事業部長の秘書」や「火消し役」に留まったりと、その役割が矮小化されているのが現実です。これでは、現場のリアルな情報(=見立て)を吸い上げ、経営や人材戦略に接続するパイプ役が機能不全に陥っていると言わざるを得ません。
では、HRBPはどうすれば「人の見立て」を深め、機能不全から脱却できるのでしょうか。鍵は、現場に入り込み、情報を立体的に収集する仕組みにあります。
- マネジメントサイクル支援を通じた現場情報の収集
HRBPが現場の最小単位のマネジメントサイクル(問題特定、原因仮説、打ち手、実行)に深く関与することで、個々人のリアルな情報を多角的に集めます。例えば、「Aさんはこのプロジェクトでリーダーシップを発揮した」「Bさんは今の仕事にストレスを感じているようだ」といった、システム上には現れない“生きた情報”を収集します。現場の悩みに寄り添うことで、解像度の高い人事情報、すなわち「見立て」の精度が向上します。
- 「人材開発会議」の活用
この会議は、「静的なデータベース」を「動的な羅針盤」へ変えるためのエンジンです。定期的に人材開発会議を実施し、人事、直属のマネージャー、他部署のマネージャーなどが集まり、社員一人ひとりの現状や伸びしろについて議論します。これにより、一人の上司の評価だけでなく、全社的な視点で「この人材をどう活かすか」を検討できるようになります。例えば、「次の事業フェーズでは拡散性のリーダーが必要だ」といった経営戦略に基づき、候補者を見立て、抜擢することが可能になるのです。
4. 「見立て」がもたらす人材開発の投資戦略と成果
「人の見立て」が精緻になると、人材開発の投資の在り方も劇的に変わります。かつてのような、全社員に公平に機会を与えるという画一的な研修ではなく、個々の状況に合わせた「メリハリ」の効いた投資が可能になります。
例えば、組織を取り纏めるポテンシャルを持ち、将来の幹部候補と見立てた人材には、挑戦的なプロジェクトへのアサインや外部研修への参加など、集中的に投資する。一方で、専門性を極めることを望む人材には、その領域を深める支援を行う。こうした投資判断の積み重ねが、将来の組織の推進力を大きく左右します。
実際に、私たちの支援先企業では、「人の見立て」を重視することで人事部門の会話の質が劇的に変わりました。「なんとなく採用を頑張る」という漠然とした状態から、「この事業フェーズを乗り越えるために、こういう特性を持つリーダー候補を採用・育成する」といった、解像度の高い議論ができるようになっています。このような人材育成への真摯な姿勢は、社員のエンゲージメントを高めるだけでなく、採用市場においても明確な強みとなり、「人が育つ会社」としてのブランドを確立します。
5. まとめ:強い組織は「人の見立て」から生まれる
企業の持続的な成長は、「採った後」にこそかかっています。採用した人材のポテンシャルをいかに引き出すか、その成否が企業の未来を決めるといっても過言ではありません。
- 機会提供が成長を決める:社員の成長は「いつ、どんな機会を与えられるか」で決まります。その鍵は「人の見立て」にあります。
- HRBPが要となる:HRBPが現場と経営をつなぐ情報のハブとなり、「人の見立て」を深化させることが、戦略的人事を可能にします。
- 地道な取り組みこそ競争優位の源泉:今いる社員一人ひとりに眠る可能性に光を当て、適切な機会を提供し続けること。この地道な営みこそが、組織の競争優位をもたらすのです。
「うちの会社は人が育たない」と感じているとしたら、それは人材の能力ではなく、育成の仕組みに課題があるのかもしれません。
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