ウェルビーイングの高い組織づくりに向けて~FFS理論を使ってコミュニケーションのズレを減らす
お話を伺った方:山口美峰子様(デジタルヘルスケア事業推進室 主席主幹)
会社名:NECソリューションイノベータ株式会社
業種:情報通信
- 導入範囲:デジタルヘルスケア事業推進室での活用
- 導入時期:2023年10月~
- 導入前の課題
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- メンタルウェルビーイング事業を推進すると同時に、社内のウェルビーイングも推進しなければならない
- 主な取り組み
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- 部門内での受検、ワークショップの実施
- 自己理解・相互理解への活用
- 部門メンバーの個性分布の把握(今後チーム編成への活用も検討)
- 導入効果
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- マネジャー層にとって、チーム内の関係性づくりのサポートツールとなった
- 個性の違いから生じる行き違い等に対して、改善の糸口が見つかった
【導入の経緯】ウェルビーイングを高めるために活用を検討
―ウェルビーイングへの取り組みを進める中でFFS理論を知ったと伺ったのですが、そもそもどういう取り組みを進められていたのでしょうか
山口さん 私はもともと研究開発部門に在籍していて、メンタルヘルスケアは研究テーマの1つでした。2020年にヘルスケアの事業開発をミッションとするデジタルヘルスケア事業推進室が新設され、そのタイミングで異動してきています。当時、研究開発部門で技術開発をする中で注目したのが、アメリカのウェルビーイングAIやポジティブコンピューティングといった動きでした。ウェルビーイングに寄与する技術創出に関心を持ち、技術開発とその先の事業開発を考えてきました。現在、成熟社会においては、経済指標だけではない価値が重視されはじめています。当社でも様々な観点でウェルビーイングについて議論、検討を重ねていますが、私自身は「メンタルウェルビーイング」を最初の事例に、ウェルビーイングの観点を取り入れたサービス開発を進めています。
―事業開発を進めるなかで、ウェルビーイングが重要な観点となったわけですね
山口さん 事業開発を進めると同時に、例えば自社の社員のウェルビーイングについても取り組み始めています。外部の識者にアドバイザリーとして入ってもらったり、「ウェルビーイングイニシアチブ」に参画したりしています。実はFFS理論を知ったのは、このイニシアチブについての意見交換のときです。「おもしろい調査があるんですよ」ということで紹介されました。
―どういう点で興味を持たれたのでしょう
山口さん ストレスを扱った理論であること、そして1人ひとりの個性が見えるということに興味を持ちました。思い返すと、メンタルヘルスを研究していた頃に目にしたことのある理論でした。説明を聞くと非常に納得できるものだったので、デジタルヘルスケア事業推進室をテストケースとして活用してみることにしました。
―他にも活用されていた調査等はおありですか
山口さん 労働安全衛生におけるストレスチェックはやっていますし、グループ内ではエンゲージメント調査も実施しています。ただ、エンゲージメント調査はどちらかというと会社視点に立つもので、従業員主体のウェルビーイングとは少し観点が違います。それに対してFFS理論は、従業員主体のデータとして活用できそうだという点で興味を持ちました。
―ご自身の結果を見たときの感想としては、いかがでしたか
山口さん 「なるほどね」と思いました。私はE(保全性)とB(受容性)が高いのですが、自分でも確かにそう思います。ただ周りからは「違う個性だと思っていました」という反応も聞かれました。新事業開発をやっていたので、D(拡散性)が高いようにも映っていたようです。でも私自身はE(保全性)型の仕事スタイルで、新規事業に取り組んでいるのですね。大きいテーマだけを与えられると結構大変なのですが、幸い上司がこまめに相談にのってくれる人でした。それもあって、きちんと準備して確認しながら進めるというE(保全性)型のアクションがとりやすかったと思っています。
【活用による変化】違いがわかると、お互いのよりよい関わり方に意識が向く
―部署の皆さんの感想はいかがでしたか
山口さん もともと部門内の人間関係が悪くなかったことも幸いし、特に抵抗はなく、お互いの結果を共有することができました。他の人の結果が意外だったと思った人もいたようです。チームの関係性を理解するための「雪山サバイバル」ワークも皆で受けたのですが、「この個性だとこういう表出の仕方をするのか」という気づきがあったと思います。
―ウェルビーイングを高めるという観点で、FFS理論の有効性はいかがでしょう
山口さん コミュニケーションを良くするツールになると思いました。お互いの違いがわかることで、どうしたらお互いが気持ちよく仕事できるかという点に意識が向きます。それがチーム内の軋轢を小さくしたり、働きやすさを高めたりします。働いている人同士の関係性が良くなること自体がウェルビーイング要素の1つだと思うので、そうした点に役立つと感じます。
―実際に感じられた変化はありますか
山口さん 各マネジャーは、チームメンバーとの関係性をそれぞれが試行錯誤しながら構築しています。あるマネジャーは、自分とは個性が異なるメンバーへの接し方をかなり迷っていたそうなのですが、個性因子を知ることで「何に気を付ければよいかわかった」「マネジメントがしやすくなった」「”型”を知ることでコミュニケーションのPDCAサイクルを早く回せるようになった」と言ってくれました。
―個性の違いを理解すれば、対処方法がわかるという点ですね
山口さん そうですね。個性の違いからちょっとした軋轢が起きているチームもあったのですが、メンバーそれぞれの個性がわかったことは、相互理解への一歩目になったと思います。たとえばA(凝縮性)が高い人は主張を強く発信しがちだと思うのですが、うまく伝えないと、他の人は受け止めきれません。従来はそうした行き違いの改善方法がわからなかったのですが、FFSはその糸口となります。相互理解を進めるには時間がかかりますが、やりようがないことはなくなったと思っています。
―他に気づかれたことはありますか
山口さん 当部門は新規事業に取り組むので、開拓型の人材がどの程度いるかも見たいと思っていました。分布としてはB(受容性)が高い人の割合が多く、D(拡散性)やC(弁別性)の高い人は少ない状況でした。もちろんどの個性でも新規事業に取り組めますが、ともするとマジョリティ側のやり方が標準になりがちです。新規事業を加速するうえでは、新しいことに積極的なD(拡散性)因子は重要で、拡散性因子が高い方々の個性を十分に活かせる組織づくりも大事だと、改めて思いました。
―違う個性の行動が理解できず、制約してしまうこともあり得ますからね
山口さん 場合によっては上司部下の関係を組みなおしたり、チームを組み替えたりしたほうがよい場合もあるかもしれません。なんとなく思っていた違いがFFS理論によって言語化されたので、具体的なうち手を考えやすくなったと感じています。
―メンタルウェルビーイング事業の方とも関連しそうでしょうか
山口さん 今はまだ直接連動させていませんが、いろいろと関連する気はしています。そもそも「メンタルヘルスケア」の場合はマイナスをゼロにするという発想で、ストレスはない方がよいという考えに立ちがちです。一方「メンタルウェルビーイング」は、ゼロからプラス側にする、あるいは自分にとってのよい状態をつくっていくという発想が主です。FFS理論はストレスを適正範囲にすべきだという考えですが、まさにそれは「メンタルウェルビーイング」の方向性と合致します。さらに、個性を理解して強みを活かすというFFS理論のアプローチは、本人の「こうしたい」「こうありたい」を重視する「ウェルビーイング」の考えと重なる部分が多いと思っています。
【今後の展望】働きがいを高める組織運営に活かしていく
―今後はどういう展開を考えているのでしょうか
山口さん 私たちの部門では、コミュニケーションをよくするためのツールとして、またミッションに応じたチームづくりに役立てることをねらいとして導入を決めました。前者はまさに実感しているところで、今後はさらにチーム編成等に活用していきたいと思っています。合わせて、当部門の上位となるパブリック事業ラインでこのトライアルを共有していまして、他部門でも活用という流れが生まれるかもしれません。
―お互いの個性を理解したコミュニケーションが広がっていくとよいですよね
山口さん 今回のFFS受検のあと、マネジャー向けのフォロープログラムも実施しました。そこで「自分がまだ経験していない個性の相手へのマネジメントの仕方を先に聞けて良かった」というコメントを言ってくれた人がいます。「今後こうした個性の人がメンバーにいたら」というのを先にイメージできるわけですね。マネジャー同士で相談し合える機会ができたのも、とてもよかったと思っています。
―目指している組織の状態について、教えてください
山口さん パフォーマンスの発揮には、能力やスキルだけではなく、モチベーションのような心理面も大きく関わります。個々人の心理面まで考慮して組織づくりをしたいけれど、どうやってそこを捉えたらよいかわからないというのが、これまででした。FFS理論を1つの参考情報としながら、働きがいを高める組織運営をしていきたいですね。基盤となるのは、個々人がお互いの違いを理解してお互いを尊重し、上手にコミュニケーションができている状態です。建設的な話が増え、いろいろな可能性を考えたり気づきを得たり、個々人が選択できたりすることが、働きがいを高めるうえで重要だと思っています。