経営

個々が輝き、認め合い。最もパフォーマンスを発揮できる研究組織を目指して ~予防人事としてのFFS導入と定着化

個々が輝き、認め合い。最もパフォーマンスを発揮できる研究組織を目指して ~予防人事としてのFFS導入と定着化

お話を伺った方:ポーラ化成工業株式会社取締役(インタビュー当時)末延則子様/ポーラ・オルビスホールディングス マルチプルインテリジェンスリサーチセンター 赤塚秀貴様

会社名:株式会社ポーラ・オルビスホールディングス/ポーラ化成工業株式会社

業種:化学

従業員数:221名/775名

  • 導入範囲:研究部門での活用
  • 導入対象人数:約80名
  • 導入時期:2022年7月~
導入前の課題
  • 新しいことに取り組むメッセージを出しても、メンバーがついてこなかった
  • コロナ禍においてメンタル不調者が頻発していた
  • コミュニケーションの掛け違いやズレに悩むことがあった
主な取り組み
  • 部門全体でのFFS理論の導入
  • 担当者がパーソナルアナリスト資格を取得し、社内ワークショップ実施や個別のコミュニケーション設計を推進
  • メンターメンティーの組み合わせや、チーム編成にも個性の組み合わせを反映
導入効果
  • 個性の違いが引き起こすコミュニケーションのズレが減った
  • 上層部が個性の違いを理解してメンバーと関わるようになった
  • メンタル不調者がゼロになった(※業務が直接要因とされるメンタル不調を指す)
  • 離職と休職率も劇的に減少するなどディストレス状態の改善に効果

【導入の経緯】個性の違いがコミュニケーションのズレを引き起こしている

―どのような経緯で、FFSを導入することになったのでしょうか

赤塚さん:私自身は入社からずっと開発系で、今は研究戦略に関わる仕事をしています。基礎研究・製品開発業務が長かったのですが、昨年の9月からこちらに異動してきました。

実はFFSを最初に知ったのは、2008年です。当時、ヒット商品を生み出すためのプロジェクトが立ち上げられ、私がそのリーダーに任命されたのです。新しいことに挑戦できるいい機会ではあったのですが、どうメンバー巻き込み、どう結果を出していくかについては試行錯誤していました。

チーム編成について悩んでいる時に、たまたま書店で見つけてFFS理論について記した小林惠智先生の書籍『プロジェクトリーダーのためのチームマネジメント-6人で9人の分の仕事をする組織最適化の法則』を読んだのです。余談ですが、先日この本に、小林先生のサインをいただきました!

当時は理論の活用までは至らなかったのですが、その後いろいろな場面で、コミュニケーションの掛け違いに悩むことがありました。特にそうしたズレに気づいたのは、前例のない新価値創出をミッションとする組織を率いた時です。

私は新しいことへの取り組みを楽しいと思う気質ですが、メンバーは必ずしもそうではないようだと。ゴールが見えない状態を不安がる人が結構いることにも気づきました。自分とは違う個性の人を理解する必要があると思い、FFSの活用を考えるようになったのです。

役員の末延さんがトップメッセージとしてFFSの重要性を部員に示し、後押ししてくれたので、導入を決めてからはスムーズに進みました。会社が心理的安全性の高い組織づくりに向かっていたことも、マッチしたと思っています。

―特に解決したいと思っていた課題はありましたか

赤塚さん:特に気になっていたのは、メンタル不調です。かなり難しい研究課題に取り組む人が多いので、時にメンタル不調に陥る人が出ていました。コロナ禍も影響したかもしれません。ケアに入るマネジャーの疲弊も起こっていました。

対処療法を続けても疲弊がつのるばかりなのは明らかで、いかに予防するかを考える必要がありました。FFS理論では、個性とストレスの関係性が具体的に理解できます。組織的に理解を進め、適切なコミュニケーション設計が可能になると期待して、導入を決めました。

【活用による変化】ズレの要因を説明できるようになる

―導入した印象は、いかがでしたか

末延さん:なぜコミュニケーションのズレが起きているかが、説明できるようになったと思いました。新規事業は、やはりチャレンジングな領域です。だからこそマネジャー側は「チャレンジを楽しもう」や「失敗しても大丈夫」といったメッセージを、一生懸命発信します。

しかし「失敗が怖い」「挑戦して皆に迷惑をかけたら嫌だ」と言う人も当然ですがいらっしゃいます。マネジャーからするとその発言が理解できないので、ますます熱心にチャレンジを促す。するとメンバーは反発し、マネジャーは「なぜ誰も受け入れてくれないのだろうか」と疲弊する……ということが繰り返されていました。

そのような中でFFS理論について教えてもらい、実際にメンバー全員の診断をしてみました。そこで見えてきたのが、保全性と受容性が高いメンバーが多かったという事実です。第一因子が保全性という方が、全体の50%以上を占めていました。

一方わたし自身は、拡散性・弁別性・受容性が高く、保全性は上位ではありません。FFS理論を使って『宇宙兄弟』を解説した本も読み、個性の違いを活かせない状態が、自組織で起こっていたと気づきました。

「挑戦しよう」「失敗してもいい」といったメッセージは、保全性の高いメンバーには負担でしかありません。よかれと思うメッセージが、まったくかみ合っていなかったということを目の当たりにしました。

ーFFS理論導入は、コミュニケーションの仕方やふるまいにも影響しましたか

赤塚さん:私自身は拡散性と凝縮性が高い個性です。だから「前例がないこと、新しいこと」が好きなのですが、メンバーとは大きく隔たりがあったわけです。自分自身、確かに積極的に動くし、アイデアを考えるのも大好きです。新しいことを思いつくと、発言も変化していきます。それが人にとっては不安要因になっていたということを、はじめて理解しました。

そこからは相手の特性を考えて、発言を変えるようになりました。人の反応を変えるにはまず自分の言動を変えるのが先ですからね。たとえば保全性の人に向けては「チャレンジしよう」ではなく「今のペースでいいから、できるところからやっていこう」の方が向いています。積み上げていく思考に合うからです。

1on1でも、ストレスチェックを起点にそれぞれの個性に合わせた対話を意識するようになりました。

―何か印象的なエピソードはありますか

末延さん:ある人が、「自分が役立っている自覚がなく辛い」と言ってきたことがあります。チームの軸として活躍していた人だと思っていましたが、本人の認識は異なっていました。個性を見ると受容性がかなり高く、確かに本人が納得するようなねぎらいはできていなかったのだろうと気づかされました。

以降は、相手の個性に合わせた伝え方をかなり意識するとともに、「褒める」ことを組織的に推進しています。叱る、怒るは情動的に出やすいものですが、相手に対して否定的になりネガティブな感情しか双方とも持ちません。組織全体で受容性が高い人が多いので「共感力」が高いのですよね。

そこに配慮し、褒めることで自己肯定感を高める、つまりポジティブなコミュニケーションを増やすことが大事だと考えています。褒めるといっても、ただのおべっかではありません。重要なのは、相手の価値をきちんと見つけて、言語化して伝える力。これがうまくできないと離職にまで発展するということを、この時に認識しました。

―人の組み合わせやチーム編成というところでは、いかがでしょうか

末延さん:補完関係を意識して、チーム編成を考えるようになりました。実は去年の年末に組織を大きく変えたのですが、FFSの結果も活用しています。マネジメントスタイルについても個性の違いがあると認識したので、その強みを活かした関わりかたを推奨しています。

ただ実際に取り組む過程では、各マネジャーの迷いも出てきます。その時の相談先として、心理コンサルタントの方にも関わってもらう体制をとりました。こうした取り組みを進める中で、メンタル不調の人はほぼいなくなってきています。

赤塚さん 「この人は、自分の言葉にこういう反応をしているんだ」ととらえられると、相手の個性に合わせて表現を変えられるようになります。コミュニケーションの掛け違いが減る中で、結果的に相手(特にマネージャーの思い)を理解する行動にもつながり、心理的安全性が保てるような組織になってきているのかなと思っています。

【浸透に向けた工夫】ストレスを基準にして個性の違いを扱う

―導入時期に反対の声などがなかったのでしょうか

赤塚さん:確かに反対の声はありました。個性の開示に抵抗感を持つ人もいましたし、評価に使われるのではないかと思った人もいたようで、そうした誤解を払拭していく必要がありました。そのためには「あなたがストレスを感じることを把握して、適切なコミュニケーションをとるために役立つ」ということを伝え続けないといけません。

最初は大人数を対象に説明会をおこなったのですが、最近は5、6人程度に絞り、双方向で話せる場にしました。ストレスを基準にして自身と相手の違いを理解するようなアプローチは、共感性が高いですね。「もっと勉強したい」と言ってくれる人もいるほどです。

―浸透によって感じる効果はありますか

赤塚さん:末延さんは結構「今、弁別性が出たよね」といったFFSを意識した発言をしています。これが意識付けに結構重要だと思っています。「相手が弁別性に合う説明を求めている」と気づくことができますので。そうすると、相手がストレスを感じるようなコミュニケーションが随分減らせます。

また、採用時に全員FFSを受けてもらい、入社後のメンターに同質性の高い人を組み合わせるようにしました。最初は同質性が高い人がよく、その先は異質性の組み合わせがよいと聞いていますので、1年経ったら異質性のあるメンターに変えるといったことも、今後考えているところです。

―導入前との違いを振り返ると、いかがですか

赤塚さん:人の個性理解ができると、ゆとりが出てきますよね。仮説をつくって人と話せるようになるからではないかと思っています。最近は、現場でFFS理論に興味を持った人がアンバサダーのように動いてくれるような広がりも生まれてきました。

【今後の展望】高い成果を出すチーム編成に生かしていく

―今後の活用で考えていることはありますか

末延さん:やはり繰り返し理解を深める機会をつくっていくのは大事だと思っています。ストレス診断をいつやってどう活用するか。キャリア採用の人にはいつFFSを受けてもらい、どう理解を深めてもらうかといった点をきちんと体系化して、推進担当が変わっても継続できるような工夫をしていく時期かなと思っています。

赤塚さん:ゆくゆくは、スーパーチームづくりに役立てればと思っています。社内には多様なメンバーがいます。その強みを補完し合い、大きな成果を出していけるチームづくりができれば、事業成長の大きな後押しとなります。

―チーム編成によって、開発内容も変わるものでしょうか

末延さん:やはり異質性があるチームの方が、よりパワーが出ると思っています。同質メンバーの方がモチベーション高く取り組みやすいのですが、80%程度の成果にとどまりがちです。一方、異質メンバーが入ると120%になる可能性があります。どのタイミングで誰を混ぜていくかを考えるのも、マネジャーの役割でしょう。個性を把握してマネジメントしていくことが、今後一層、大事になると思っています。

―FFSに関心を持つ読者の方々に、メッセージをお願いします

末延さん:FFSを知るまで暗中模索していたものが、理論を学び、組織で実際に使ってみたことで、どんどん見えてくるものがありました。自己理解が深まると、自分がなぜそう考えたのかが整理でき、自己肯定感にもつながります。FFSを知ることで、「自分の取扱説明書」を1人ひとりがつくれるようになるのではないでしょうか。その結果、自己肯定感を高め、幸せを感じられる人が増えていくと思っています。

赤塚さん:FFSは単に個性を測るものではなく、相手に伝える言葉についての重要な仮説を導き出してくれるツールだと思っています。FFSを学ぶと、安心してコミュニケーション設計ができるようになります。私自身がまさにそれを体感し、効果を実感しました。

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