人的資本経営

人事は組織の「未来」のために~戦略人事とストレス特性理論

人事は組織の「未来」のために~戦略人事とストレス特性理論

 実は、ちょっと反省していることがあります。

 我々relateは「ストレス特性理論(以下「ストレス特性」)」というツールを使って、組織の戦略人事をコンサルティングする企業、なのですが、ストレス特性というツールがあまりに便利すぎて、「relate=ストレス特性」「ストレス特性を導入すれば組織の人事問題は解決する」という誤解が生まれています。

 実際、ストレス特性の導入であっさり課題が解決する企業もあります。それで我々自身も問題に気付くのが遅くなってしまいました。

※ストレス特性理論:人がストレスを感じる要素を3つに分解し、それをさらに分解した5つのドライバーの高低によって、その人の思考や物事の感じ方を分析する

 ストレス特性は単なる性格分析とは異なり、「考え方の違う人」への理解・共感を育み、異質な人同士の補完関係=「異質補完」を促すチームを形成することができます。

 以前も触れましたが、異質補完の経験はチームのメンバー全員を成長させ、組織全体をパワーアップする機会になります。

 個人だけでなく、組織のポテンシャルを分析し、変化させることができる。これが、ストレス特性理論を導入する最大のメリットです。

 しかし、せっかくストレス特性を導入したのに、目の前の問題だけを解決して、そこで止まってしまうことがよくあるのです。

目先の問題だけ解決して終わってしまう

 経営者の方や、人事の担当者から我々に寄せられるのは「活気のない営業部」や「アイデアが出ない企画部」をどうにか立て直したい、といった相談が多く、それらにもストレス特性は効果を発揮します。たいていはメンバー同士が、お互いの異質な個性を誤解して雰囲気が悪くなったり、意思疎通ができなくなっている、あるいは同質の人が集まりすぎて新しい発想ができなくなっている、ということが理由ですので、このツールで誤解を解き、適切なバランスを取り戻すことで、チームは息を吹き返します。

 ところがせっかく立て直したのに、いつの間にか元に戻ってしまうケースが多いのです。問題が「ひとまず」解決したところで、組織を変えよう、という熱意が冷めてしまうのですね。企業の組織全体が変わるには時間も広がりも足りなすぎて、小さな花が咲いて、終わり。

※なお、短期間のストレス特性の導入で持続的な効果を発揮する例外もあります。新入社員や中途入社のオンボーディングです。これについては別の記事でご説明しています

 小さな花が咲くことにも、意味はあるのかもしれません。しかし、現場が変わろうと努力し、マネジメント層も動き、費用もかけた結果が元の木阿弥というのは、あまりにももったいないと思います。

 どこがまずいのでしょうか。どうすれば後戻りしないで組織文化の変革までいけるのでしょう。

 まずいのは、そもそもの目標設定ではないでしょうか。

 短い射程で考えるから、成果が出てもすぐに戻ってしまうのです。

人事は「未来」のためにある

 私はこう思っています。

 人事は、「現在」の問題解決よりも「未来」の目標を考えるべきだ。

 人事の施策で未来の目標を達成することこそが、我々relateが企業に提案すべき「戦略人事」のコンサルティングなのだ、と。

 「人事」という言葉には、「組織を安定させる」という“守り”のイメージがあります。日々の労務に関連するあれこれをアシストして社員の「日常」を整え、あるいは「過去」の評価を蓄積していく、それが人事、という認識ですね。

 ですので、人事は「過去」「日常維持」という守りのイメージが近く、「未来」や“攻め”といった言葉とはかけ離れた印象があります。人事と「未来」がどう関連しうるのか、なかなか具体的に思い浮かばない方も多いのではないでしょうか。

 でも、シンプルに考えてください。

 未来とは、企業の場合は基本的には成長です。

 人事と未来を関連させる、ということは、「人の成長」と「事業の成長」を組み合わせること、と言い換えることができます。

 例えば、

 「次のこの業務を任せたら、彼は伸びるか?」

 「彼女にこの部署を任せたら、新しい事業を生み出してくれるだろうか?」

 そんなふうに考えるのです。

個人の成長なくして組織の成長なし

 事業は事業、人は人、そんなふうに思い込んでいないでしょうか。経営者の方ならばおわかりの通り、事業はつまるところそれを率いる人、実行する人と不可分です。

 人の成長が事業の成長につながり、事業が伸びれば人も伸びます。だから、部署や役職の階層で内規に従って人を貼り付ける、のではなく、その事業を発展させる潜在力のある人を探し、最優先で持って来よう、とするほうが、戦略的には正しいのです。

 それだけではありません。人と人の組み合わせも考えます。「この人をこの人と組ませてこういう能力を引き出し、この事業を成長させましょう」という発想までも、事業計画に織り込むのです。

 人間には必ず得手不得手、向き不向きがあります。どんな人でも一人で組織が求める要素を完璧に満たすことはほとんどありません。そこで「補い合える関係」が必要です。リーダー役、その人の判断を補佐する人、あるいは足りない部分(実行力、アイデア、調和、刈り取り……)を補う人を集めて、新事業を、既存事業を活性化するチームを編成する。チームの中で補完関係が作用して、それぞれのポテンシャルがさらに引き出され、それが成果につながっていく。

 これが、未来を拓くための戦略人事(の、一例)です。

組織と個人の両方を分析できる「ストレス特性」

 個人と組織、両方のポテンシャルを分析できるストレス特性は、「どういう人事を行うと、どういう効果(マイナスも含めて)が起こるか」について、有効な仮説を立てることができます。つまりある程度の未来を予測することが可能な、まさに戦略人事のためのツールというわけです。

 最初に「ストレス特性の導入であっさり課題が解決する企業もあります」と申し上げましたが、そうした企業は「人事=事業」という考え方を最初から持っていました。企業の未来を拓くために人事がある、という発想があったので、あとはそれを実行に移す精度のいいツールがあればよかった。だからストレス特性の導入が絶大な効果を発揮したわけです。

 我々relateはこうした知見を踏まえて、ストレス特性というツールではなく、戦略人事の考え方とその実行を、経営者の方々の未来を拓く武器として、知っていただき、活用していただこうと思っています。

 さて、ここまでお話しすると、大企業におられる方の中からはこんな疑問が出てきそうです。

 「企業戦略と人事の間に距離があることが課題なのはわかる。まさにそれが今の我々の課題だ。しかし、それを解決するための組織があったはずだが……」と。

 そうです。それが「HRBP(Human Resource Business Partner、人事ビジネスパートナー)」です。

 HRBPは経営者や事業部門長のパートナーとして、人事施策面から事業や組織の成長を促す組織。これはまさしく「事業部人事のプロ」の仕事です。HRBPの導入は一種のブームとなっており、これは「事業と人事の距離を縮める必要」に気付いた企業が多いことを意味しています。

 しかし、自分が知る限りHRBPで組織が活性化している事例は、GEしかありません。日本企業ではまだ書籍(※)で読んだ限りですが、最近注目されているSHIFTも成功例に入りそうです。

 なぜHRBPでは戦略人事がうまくいかないのか、次回はこれをお話させていただきます。

(※『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』日経BP)

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