「個を生かす」とは何か?――タレントマネジメントの先にある“本質”

こんにちは、relate株式会社ファウンダーの吾妻聡平です。
近年、人材戦略やタレントマネジメントの重要性が叫ばれ、「個の時代」「個を生かす経営」といったキーワードが世の中をにぎわせています。
しかし実際には、多くの企業が「個」を本当に活かし切れているかというと、なかなかそうはなっていないのが現実ではないでしょうか。本記事では、「なぜ“個を生かす”がスローガン止まりになりやすいのか」「本当の意味で個を生かすには何が必要か」という視点から掘り下げてみたいと思います。さらに、FFS理論(Five Factors & Stress)を活用した「個性データ」の重要性に触れながら、人材投資や組織施策の最適化のヒントを探っていきましょう。
1. 「個を生かす」の掛け声が形骸化している背景
多くの企業で「個性を尊重」「個を生かす」という言葉を耳にしますが、実態を見ると形ばかりのスローガンで終わっているケースが目立ちます。たとえば、次のような状況です。
- 全社員一律の研修プログラム
個人差を考慮せず、ひとまとめに「平均的な研修」を受けさせて終わり。
社員それぞれの特性を踏まえていないため、大きな成果につながらない。 - タレントマネジメントシステムの形骸化
職歴・スキルなどの“目に見える情報”しか登録されておらず、その人の思考・行動の傾向(個性)や動機はデータ化されていない。
結果として「異動や昇進の判断材料にどれほど活かせているのか」が曖昧になる。 - 多様性を歓迎するはずが“同質化”が進む
「新しい風を吹かせよう」と異なる個性を採用しても、結局は周囲が受け入れられず排除してしまう。あるいは当人が居づらくなって早期退職してしまう。
このような問題の根底にあるのが、「個を生かすための具体策やデータの不足」です。個人の資質や行動特性を客観的に捉えないままにスローガンを掲げても、結局は旧来型の“平均的アプローチ”に逆戻りしてしまいます。
2. 本当の意味で「個」を生かすには、データによる“脱平均”が鍵
では、なぜ「個性データ」が重要なのでしょうか。
たとえば近年話題になることの多い人的資本経営の本質をたどると、突き当たるのが「一人ひとりの社員の違いをいかに把握し、最適な投資を行うか」というテーマです。しかし、現場が忙しいと全社員を個別にケアするのは困難で、「とりあえず横並び研修」となりがち。そこを打破するために、FFS理論を活用した個性データをきちんと取得・活用する仕組みがポイントになります。
(1) 個性データをタレントマネジメントの根幹に据える
「どの社員がどの仕事に向いているのか」を考える際、これまでは職歴・資格・年齢・住所といったいわゆる“属人的情報”しか使っていなかった企業も少なくありません。しかし、それだけでは「モチベーションの源泉」「どんなときにストレス反応が出やすいか」といった核心部分が見えにくいのです。
FFS理論をはじめとする個性診断の結果を人事データの中心に置くことで、「Aさんは拡散性が高いから新規プロジェクトでイノベーションを起こせるが、保全性の高い業務は苦手かもしれない」といった具体的な見立てが可能になります。すると、最適配置や育成がより的確に行えるのです。
(2) “一律”から“タイプ別”へ――脱平均の組織施策
個性データを活用すれば、「百人百様」に見える社員も、実はある程度因子の組み合わせでタイプを把握しやすくなります。すると、それぞれのタイプに合わせた研修や育成方法を設計できるため、現実的なコストで個を生かすための多様な施策を打てるのです。
- 拡散性が強いタイプには、アイデアをどんどん出す場を用意し、形に落とすのは別の保全性メンバーに任せる
- 凝縮性が強いタイプには、大きな責任感を発揮するようなプロジェクトを任せ、上司は「押し付けすぎないようにフォロー」を心がける
- 保全性が強いタイプには、変化の道筋を見せてあげることで安心し、強みの着実さを最大限に発揮する
このようにタイプに合わせた施策が回り始めると、はじめて「スローガンではない、実践的な個の活かし方」が実現するのです。
3. 「あるがまま」= “わがまま放題” ではない――相互理解と建設的議論の重要性
個性を尊重しようとするとき、しばしば「当人の言動を全部受け入れなきゃいけないの?」と誤解されることがあります。いわゆる「協調性を履き違える」「忖度してしまう」といった現象ですね。しかし、それでは組織としてイノベーションが生まれません。
(1) 異質な意見を排除しない
「こいつは変わり者」「あの人は協調性がない」とレッテルを貼り、“合わない”として排除してしまうのは簡単です。しかし、本来そこには“違う個性”ゆえに会社の新しい可能性を開拓できるパワーが隠れているかもしれません。だからこそ、排除よりも「なぜそんな言動をするのか」を相互理解することが出発点になります。
(2) 真の相互理解は“とことん議論”から
日本企業では、相手に配慮するあまり深い議論を忌避しがちです。野中郁次郎氏の提唱する「知的コンバット(真剣勝負の議論)」こそが、相手の立場を理解しつつも妥協せずにぶつかり合う姿勢の鍵。お互いに「なぜそう思うのか」を徹底的にすり合わせてこそ、新しい発想や組織の成長が生まれます。
4. 事例:個性を生かす“配置転換”が組織に活力を生む
実際、当社が支援している企業でも、個性データを活用した「配置転換」によって大きな成果を上げた例があります。たとえば、拡散性・保全性の情動因子が強い社員に「組織マネジメント」を任せていたら、周囲への配慮が足りず、部下とのトラブルが絶えなかったというケース。そこで「人を束ねるより、自分のアイデアを形にする領域」にシフトしてもらったところ、組織内で新規コンテンツを次々と生み出し、会社の新しい事業の柱へ成長したのです。
ここで重要なのは、「ダメだから外す」のではなく、「その人の個性がもっと輝く場所」を見極めるアプローチでした。本人も自分の強みが十分に活かせる環境に移った結果、モチベーションが一気に高まり、パフォーマンスが格段に上がったのです。
5. まとめ:個性データを軸に、組織全体で“個を生かす”土壌を
- 「個を生かす」と言いつつ、実際には平均的アプローチのまま止まっている企業が多い
- 人的資本経営の要は“脱平均”――個性データを活用して社員ごとの特性に合わせた投資を可能にする
- 重要なのは「わがまま放題にする」ことではなく、相互理解に基づく建設的な議論で個性を発揮させる仕組み
“個を生かす組織”をめざすなら、現場だけでなくマネジメント層や人事部門、さらには経営陣が一体となって個性データを活用し、「どの社員にどんな役割を与えれば最大のパフォーマンスを引き出せるか」を考える文化を醸成していく必要があります。スローガンに終わらない本当のタレントマネジメントを実践し、変化の激しい時代に“人”という資本を最大限に活かす組織を築いていきましょう。
◆お問い合わせ
「自社のタレントマネジメントをアップデートし、真の“個を生かす組織”を作りたい」「人的資本経営を実践したいが、具体策が見えない」といった課題をお持ちの方は、ぜひrelate株式会社へお問い合わせください。
FFS理論に基づく個性データを軸に、御社ならではの脱平均アプローチを設計し、組織の可能性を大きく広げるお手伝いをいたします。
お問い合わせはこちらのフォームよりお願いいたします。
https://relate-inc.co.jp/inquiry/