なぜ優秀なプレイヤーは、マネージャーになると“壁”にぶつかるのか?

こんにちは、relate株式会社ファウンダーの吾妻聡平です。
「現場のエースだった彼が、マネージャーになった途端に輝きを失ってしまった」
「部下との1on1が、ただの進捗確認で終わってしまう」
「チームをどうまとめれば良いかわからず、日に日に疲弊しているリーダーが増えている」
多くの企業で、このような声が後を絶ちません。プレイヤーとして高い成果を上げてきた人材をマネージャーに登用するのは、一見すると最も合理的な判断に思えます。
しかし、その昇進が、かえって本人とチームの双方を不幸にしてしまうケースは驚くほど多いのです。企業にとっては、優秀なプレイヤーを一人失い、同時に成果を出せないマネージャーを一人抱えるという、二重の損失に他なりません。
今回の記事では、なぜ優秀なプレイヤーがマネージャーとして壁にぶつかってしまうのか、その構造的な原因を深掘りします。そして、FFS理論の観点から、個性を活かしたサステナブルなマネジメントを実現するためのヒントを探っていきましょう。
1.マネージャー1年生が直面する「学んだことのないスキル」の壁
多くの企業で、マネージャーは「現場で結果を出したから」という理由で登用されます。しかし、ここで認識すべき最も重要な事実は、プレイヤーとして成果を出すスキルと、チームを率いて成果を出すマネジメントスキルは、全くの別物であるということです。プレイヤーのスキルが「自分が実行して成果を出す」ことにあるのに対し、マネジメントのスキルは「他者を通じてチームとして成果を出す」ことにあります。思考のOSが根本的に異なるのです。
新入社員には手厚いオンボーディング研修が用意されているにもかかわらず、「マネージャー1年生」がマネジメントを体系的に学ぶ機会は、驚くほど用意されていません。多くは自己流で本を読んだり、過去の上司のやり方を断片的に模倣したりしながら、明確な正解がわからないまま手探りで進むしかないのが現実です。
これでは、できなくて当然なのです。なぜなら、彼らはマネジメントという新しい専門スキルを、一度も教わったことがないのですから。この構造的な問題が、多くの新任マネージャーを「自分はマネージャーに向いていないのではないか」という不必要な自己否定へと追い込んでしまいます。
2.あなたのマネジメントは“サステナブル”か?短期的な成果の罠
自己流のマネジメントで短期的に成果を出せても、それが持続可能(サステナブル)でなければ、組織にとってはむしろマイナスです。
例えば、短期的な結果を求めるあまり、部下の数字が悪い時に「ぐうの音も出ないぐらいに詰め切る」というやり手の営業マネージャーがいました。彼のチームは一時的に数字が上がるかもしれません。しかし、その裏で疲弊したメンバーは次々と辞めていき、チームは崩壊状態に。結局、そのマネージャー自身も、長期的な成果のなさが露呈する前に2〜3年で居場所をなくし、転職を繰り返すことになります。
これは、少年スポーツの世界でも見られる光景です。あるサッカーチームの監督は、試合中に選手を常に大声で叱りつけ、意図的に「パニックゾーン」を作り出すことで精神力を鍛える、と主張していました。そのチームは確かに強い。しかし、Jリーグの下部組織などでは、むしろ静かに選手を見守り、自主性を尊重する監督が増えています。保護者が望むのも、後者の「子供の自主性を引き出して萎縮させないチーム」です。
ビジネスの現場も同じです。部下や選手を“消耗品”として扱うような、持続可能性のないマネジメントは、いずれ破綻する運命にあるのです。
3.部下を「自分のやり方」に染めるマネジメントの限界
マネージャーが陥りがちなもう一つの罠が、「自分の成功体験を部下に押し付けてしまう」ことです。自分がプレイヤーとして成果を出したやり方こそが正解だと信じ、「自分はこうやってうまくいったのだから、あなたもこうしなさい」と部下にも同じやり方を求める。これは、マネジメントの型を学んでいないからこそ起こる、自然な現象とも言えます。
このアプローチがなぜ危険かというと、マネージャーと“同質”の個性を持つ部下しか評価されなくなるからです。自分と似たタイプの部下は「気が合う」と感じてやりやすい。一方で、自分とは異なる“異質”なタイプの部下は「言うことを聞かない」「能力が低い」と無意識に判断し、排除しようとします。
その結果、チームはマネージャーにとって居心地の良い同質なメンバーばかりになり、活発な議論は失われます。これは過去の記事でも触れた「異質補完」の可能性を完全に閉ざす行為です。部下に合わせるのではなく、部下を自分に合わせさせる。その瞬間に、マネージャーはチームの成長の可能性に蓋をしてしまっているのです。
4.「型」を知れば、マネジメントはもっと楽になる
では、どうすればこの壁を乗り越えられるのでしょうか。答えはシンプルで、マネジメントにも守るべき「型」があり、それを学ぶことです。これは画一的なマニュアルではなく、状況に応じて使い分けるための思考のフレームワークです。
その「型」の根幹にあるのが、「部下の個性に合わせてマネジメントスタイルを変える」という考え方です。FFS理論などを活用して部下の思考・行動特性を理解すれば、なぜその部下がそのように動くのか、どうすればモチベーション高く動けるのかが見えてきます。
- 拡散性の高い部下には、細かく指示するより「あとは任せた」と大きなゴールを示して自由を与える方が、創造性を発揮します。
- 保全性の高い部下には、計画の全体像や手順を丁寧に示すことで、彼らが最も得意とする「着実な実行力」を引き出すことができます。
このように、まず自分と相手の「違い」を客観的に認識し、コミュニケーションを最適化していく。この基本の型を身につけるだけで、マネージャーの悩みは劇的に減り、チームの成果は着実に向上していきます。これは上司から部下への一方的な理解だけでなく、チーム全体で「相互理解」を深める共通言語にもなり得ます。
5.まとめ:マネジメントは役割ではなく、学習可能なスキルである
- プレイヤーとしての優秀さとマネージャーとしての優秀さは、求められるスキルセットが全く異なる。
- 多くの新任マネージャーは、マネジメントを体系的に学んでおらず、自己流で壁にぶつかっている。
- 自分の成功体験を部下に押し付けるマネジメントは、同質な部下しか育てられず、組織の多様性を損なう。
- 重要なのは、部下の個性に合わせてアプローチを変えるというマネジメントの「型」を学ぶこと。
「あの人はマネジメントの才能がない」と結論づける前に、一度立ち止まってみてください。それは才能の問題ではなく、単にスキルを学ぶ機会がなかっただけかもしれません。マネジメントはセンスや気合で行うものではなく、後天的に習得できる専門スキルなのです。その事実を、会社とマネージャー双方が認識することから、本当の意味でのリーダー育成は始まります。
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「マネージャーが育たず、部下との関係に悩んでいる」「チームの離職率が高い、1on1が機能していない」「プレイヤーからマネージャーへの移行を体系的に支援したい」といった課題をお持ちでしたら、ぜひrelate株式会社にご相談ください。貴社のマネージャーが自信を持ってチームを率いるための、具体的な「型」の習得を支援します。
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