【講演レポート】2025FFSカンファレンス事例発表者によるパネルディスカッション
※左から、須山氏、山岡氏、古野
relateでは、毎年事例をもとにしたカンファレンス動画を配信し、資格取得者が視聴しています。今年の事例として取り上げられていたのが、レゾナックならびにレジルにおける取り組みです。その後に開催されたカンファレンスでは、事例発表者が登壇し、古野との対談を行いました。そこで話された内容を紹介します。
登壇者:
レジル株式会社 執行役員CHRO HR本部長 須山 一成 氏
株式会社レゾナック 研究所戦略部 技術戦略グループ 山岡 智 氏
進行:
株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役 古野 俊幸
※本記事は、2025/9/4に開催されたFFSカンファレンス内パネル討議を再編したものです
FFSをどのように社内に浸透させていくか
古野:
まず、FFSの社内活用について、聞いていきたいと思います。浸透で悩まれる方も結構いるのですが、「FFSを推進していく際に社内からあったネガティブな反応や抵抗勢力をどう乗り越えたか」、あるいは「支援者をつくっていくためにできることはあるか」という点について、どうでしょうか。
須山氏:
FFSはとても有効なツールですが、組織の基盤が整っていないとFFSが機能しない場合があると思っています。当社の場合は、働きやすい環境を整えたうえで、働きがいを高めるために導入をしたので、大きな抵抗はありませんでした。
補足すると、当社は創業30年ほど経つ会社なのですが、約4年前に社長が変わり、新しい事業戦略を打ち出しました。新たな方向に進むために、それを支える新しい人材の採用が不可欠で、採用を強化する観点から、働きやすく・働きがいのある職場環境の整備を行いました。まずは働きやすさを改善すべく、スーパーフレックス制度の導入や、会社主導の転勤廃止など、制度や仕組みを変更したのです。FFSを導入したのは、働きやすさのベースが整った後のことです。
最初から全社員導入を考えていたので、そのためにも経営層にまず知ってもらうべきだと考えました。そのため導入の最初には、経営層を対象にした4時間半のワークショップを実施しました。
古野:
経営層向けのワークショップをすることに対して、異論は出なかったのでしょうか?
須山氏:
それはありませんでした。中には「これはいい、すぐにやろう」と言ってくれた役員もいましたね。メンバーとのコミュニケーションに苦労した経験がある人ほど、腹落ちして捉えてくれた気がします。
古野:
山岡さんは事業部側の立場ですが、浸透についてのご苦労等はありましたか?
山岡氏:
当社は全社導入をしていますが、私自身は研究開発部門に所属して自部門での活用・浸透を促進しています。技術者の組織なので、導入する際にはFFSがどのような理論に基づいているか、どのような根拠があるかを丁寧に説明することを意識しました。最初は「性格診断の一種でしょ」という冷ややかな声も少なくなかったのですが、そういう説明によって「なるほど」と思ってくれた人は多くいました。
導入初期のワークショップは、少人数に分けて何十回となく実施しました。浸透させていくためには、手間をかけてでも実感してもらうのが大事だと思ったからです。最初は表情が硬い方が多かったですが、ワークショップが終わるころには「結構面白いですね」という反応に変わるのが印象的でした。
古野:
人は「なるほど」と思わないと動かないですからね。浸透の効果として1つ補足したいのは、人の見方の軸を変えていけるということです。基本的には、人は自分と同じタイプを評価しがちです。たとえば保全性が高い人は同様に保全性が高い人を評価し、拡散性のような逆の個性を評価しきれないという事象はよく見られます。それが起こっているということにまず気づくことが大事です。すると、評価軸を変えないといけない、多様な個性が活躍できる環境にしないといけないといった議論に発展できるようになります。
マネジメントやキャリア形成に活かすには
古野:
レゾナックさんでは管理職の活用にも力を入れていたと思いますが、学んだことを実践・継続してもらうために工夫されていることはありますか?
山岡氏:
まず、組織のトップからのメッセージ発信は有効だったと思います。号令がかかることで、組織全体の施策として認識してもらえたので、まずは触れてみようという意識が生まれたと思います。もう1つは、興味や活用意欲がある人のアクションを支援できるようにしたことです。忙しい中で余計なことを増やしたくないと思う人もいるでしょうが、とにかく触れてもらうことで、面白いと感じる人が必ず一定数表れます。その人たちが効果を感じられれば、火種となり、広がっていくはずだと考えました。実際、成果が出ているチームは複数あります。
古野:
レジルさんではキャリア形成とFFSを組み合わせていますが、もう少し詳しく教えてもらえますか。
須山氏:
当社はもともと、営業力を強みに成長してきた会社で、「決まったことをやり抜く」スタイルが根づいていました。しかし現在は、戦略転換の中で、決まったことをこなすだけでなく、「自分で決め、自分で答えを探す」ことを重視しています。そのためキャリアについても、会社主導ではなく、個人が主体的に考えるキャリアオーナーシップを大切にしたいと考えています。
ただ、いきなりキャリアオーナーシップと言われても戸惑う人が多いと思いましたので、自分の強みを起点にキャリアを考える2時間のセッションを、まずは1回、実施しました。
古野:
人事制度の改定も関わるとのことですが。
須山氏:
はい。これまでのキャリアパスは、マネジャーを目指す単線的なものでした。背景として、マネジャーになることで昇給する仕組み(=役職手当)があったため、「昇給のために役職を目指す」構造になりやすかったんです。そこで、役職手当を廃止し、役職と報酬を切り離すことで、金銭を気にせずキャリアを選べる環境を整えました。
推進体制として考えるべきことは
古野:
組織内でのFFS推進の体制はどのようになっていますか。特に、人数が少ない時に、体制として工夫できることがあればという声があるのですが。
須山氏:
当社の場合は、資格を持っているのが私ともう1名という体制です。スピードを考えて、ワークショップは外部の力も借りて実施しました。
山岡氏:
当社の場合は全社で推進を進める人事部門に有資格者が多くいます。私はそこと連携しながら自部門の推進を行っています。必要なら人事側が手を貸してくれるので、体制はフレキシブルに組んでいけると思っています。とはいえ、現場目線で組み立てるのが大事だと思うので、現場側が主となり進めています。
古野:
主体を人事側に置くのか、現場側がよいのかという話はよく出ます。戦略に組み込むという点では人事が中核になるべきだと思いますが、実際の活用という点ではハイブリッド型が現実的であり実践的だと感じています。山岡さんは開発側として関わっていることのメリット、デメリットをどう捉えていますか?
山岡氏:
私自身開発現場経験もあり、近い視点で考えられるので、「こういう使い方がよいだろうな」というのを想像してアクションを考えるようにしています。現場での活用に注力するのであればやはり、現場に近い側で考える方が実践的かなと思いますね。
成果をどのように見ていくか
古野:
FFSによる成果測定についてもよく議論となります。KPI設定はどのようにされていますか?
須山氏:
現時点ではまだできているとは言いきれませんが、重視しているのは「有用感」です。FFSという手法が自分にとって使えるものだという感覚を持ってもらえるかどうか、ということですね。経営効果については言えたほうがよいのですが、変数が多すぎてまだ証明できるほどの準備はできていません。まずは使う本人がどう思うかを重視して、それが組織成果にもつながっていけばと思っています。
山岡氏:
数値化には同じく難しさを感じています。一方で、須山さんがおっしゃった有用感は確かに重要な指標だと思います。もう1つ、毎年実施しているエンゲージメントサーベイの中で何らかの変化が起きることを期待しながら、今はその過程を見ているというところです。
古野:
編成によって成果が変わるというのは、実際に確認できています。ディストレスの出現率が減ると、生産性は必ずあがります。その点で、ストレス値の動向とエンゲージメントサーベイは定期的にとることをお勧めしたいですね。あと、現場からの問い合わせが来るのも1つの指標だと思います。使えると思うから問い合わせてくるわけで、まさに有用感の表れだと言えます。
質疑応答セッション
質問者:
FFSを使ったキャリア形成を進めることで、転職につながることはなかったでしょうか?
須山氏:
まだ始めたばかりなので何とも言えませんが、今のところはポジティブな反応を感じています。「こういう自分だったんだと気づいた」、「今の仕事との意味付けができた」といった感想ですね。
質問者:
少ない人数で推進していくときに、優先順位をどうつけていこうかと迷います。その点について、考えられていることはありますか?
須山氏:
FFSを欲する瞬間というのが、必ずどこかで出てくると思っています。たとえばエンゲージメントサーベイの結果が自組織だけ悪いとなると、このままではまずいと組織長が思うでしょう。そうしたときに「FFSを使って相互理解を深めてはどうか」と提案すると、「そうだね」となりやすい。優先順位という点では、組織の中で必要とされる瞬間を逃がさず、そのタイミングで優先的に対応することが重要だと考えて、取り組んでいます。
山岡氏:
今のお話に共感します。一番必要としている瞬間にしっかりと入れることが大切だと思いますね。全部に関わっていくのは難しいので、必要とした瞬間瞬間に、しっかりと対応できたらと思っています。
質問者:
FFSの結果をもとにした組織編成や異動も、実施していますでしょうか?
山岡氏:
検討はしていますが、FFSだけで異動を決められても困るという声も現実的にはあります。実施するにしても、対象を絞って少しずつ要件が合うところから始めるのが現実的だと思っています。
須山氏:
今後やっていけたらとは思いますが、たとえば拡散性の人がそもそも少ないと、望ましいチーム編成がつくれません。もしかしたらいきなり組織編成というより、採用の段階から考えて構築していく必要があるかもしれないと思っています。
古野:
FFSの本質は、プロジェクトのチーム編成に活かせることだと思っています。プロジェクトの成否は人選で決まると言っても過言ではありません。チーム編成を最適化すれば成果が高まるというのは自信をもって言えますので、ぜひ多様な人材をそろえ、いいチームをつくるところに活用してもらえたらなと思っています。
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