マネジメント

「部下のことは自分が一番わかっている」は本当か?

「部下のことは自分が一番わかっている」は本当か?

FFS理論が解きほぐす“上司バイアス”と組織停滞の原因

「『部下のことは自分が一番わかっている』と考える上司ほど、実は大きなバイアスを抱えているかもしれない。FFS理論を活用して、組織停滞の根本要因を解き明かし、部下の個性を引き出す方法を考えます。」

こんにちは、relate株式会社ファウンダーの吾妻聡平です。
私たちが企業の組織改善に携わるなかで、経営者や管理職の方からしばしば聞くフレーズがあります。それが「部下のことは自分が一番わかっている」という言葉。表面上は「信頼」や「愛情」を表す響きがありますが、実際には部下を誤解していたり、コミュニケーションが噛み合っていなかったり――そんなケースが意外なほど多いのです。

今回の記事では、「自分が一番わかっている」はなぜ陥りやすい思い込みなのか、そしてどうすれば上司と部下のギャップを埋められるのかを深掘りします。4月2日の記事(「スーパースター」を追いかけるより、“スーパーチーム”を育てよう」)で触れたFFS理論の考え方をさらに応用し、組織が停滞する根本原因を解き明かしていきましょう。

1.「部下のことは自分が一番わかっている」は矛盾だらけ?

停滞する組織が抱える不思議な姿

ある経営者が「自分は部下を一番理解している」と語りながら、同時に「組織が停滞している」「経営チームがうまく機能していない」と相談してくる――これは決して珍しい話ではありません。冷静に考えれば、もし本当に部下を理解できているなら、停滞やコミュニケーション不全は起きないはず。そこにはやはり大きな矛盾があります。

表向きの“愛情”が迷走を生む?

上司としては、「自分ほど部下のことを思っている人はいない」という強い責任感や愛情から「わかっている」を口にしているケースが多いのも事実です。ただ、部下の側に目を向けると、「上司はまったく自分をわかってくれない」「意図を汲もうともしてくれない」という声が挙がっていたりもします。
要するに、上司が部下を愛しているつもりでも、そのやり方が個性に合っていないためにミスコミュニケーションを生んでいる可能性が高いわけです。

2.上司バイアスの正体:なぜ部下とのミスマッチが起こるのか

“自分のスタイルこそ正解”というフィルター

経営者や管理職に多いのが、自分の成功体験を基準に「こうやれば成果が出る」「これさえやればモチベーションが上がる」といった“唯一の正解”を信じてしまうパターンです。その結果、部下の個性を冷静に見ず、「なんでやらないんだ?」と苛立ち、あるいは「やる気が足りない」と判断してしまうことになります。
しかし、FFS理論で言えば、拡散性の部下は抽象的なビジョンを打ち出されれば喜んで動き始めるかもしれませんが、保全性の部下は「具体的な計画や手順がわからないと動きにくい」かもしれないのです。上司のやり方が部下のスタイルと噛み合わないとき、誤解がどんどん膨らんでいきます。

部下を“できないやつ”とレッテル貼りしていないか

さらに悪いケースでは、上司が自分のスタイルとは異なる部下を「無能」「非協力的」などとレッテル貼りしてしまい、部下の側も「もうどうせわかってくれない」と諦めてしまうという事態に陥ります。
例えば保全性の上司が拡散性の部下を「軽率だ」「反省しない」「態度が悪い」と切り捨てたり、凝縮性の上司が受容性の部下を「決断力がない」「煮え切らない」と評価したり……これはバイアスによる誤解の典型例です。

3.FFS理論で見る“経営者の成功体験”が危ない理由

自力で成功した経営者ほどハマりがち

スタートアップの創業者やトップ営業出身の社長など、「自分の個性を武器に圧倒的成果を出してきた人」がいる一方で、そうした経営者ほど部下に同じ手法を押し付けてしまう傾向が強いのも事実です。
「自分がこうやったんだから、みんなも同じことをすればいい」「なぜやらない?やる気が足りないのか?」といったフレーズが頻繁に出るなら、要注意。部下の個性は決して“上司のコピー”ではありませんし、動機付けのポイントが異なる部下に「まず行動しろ!」と言っても逆効果になりやすいのです。

“分かっているはずなのに部下が動かない”矛盾をFFS理論で解決する

実際、私たちrelateが支援してきた経営者のなかでも、

  • 「誰よりも部下を理解している」と言いながら、部下がちっとも動いてくれない
  • 「社員の将来を思ってアドバイスしているのに、なぜ?」

と悩む方が少なくありません。FFS理論で各メンバーの個性を見ていくと、個性別にスタイルの違いがはっきり表れます。そこを理解したコミュニケーションに変えるだけで、全く違った組織力を発揮できるのです。

4.現場視点:部下を活かすための3つのステップ

上司が「分かっている」と思い込みながら停滞している場合、どこから手を付ければいいのでしょうか。ここではFFS理論を踏まえた3つのステップを提案します。

ステップ1:上司自身の因子を知り、“自分の常識”を疑う

まずは上司本人がFFS理論で自分の五因子を分析し、「自分は拡散性が高いから、自在に進めるのが得意な反面、プロセスを気にする部下を過小評価しがち」「保全性が強いから、しっかり形にするのは得意な反面、プロセスが曖昧な部下の提案に干渉しがち」などと“自分の当たり前”を再確認します。ここで「部下が動かない原因は、自分のスタイルがすべての人に合っているとは限らないからだ」と腹落ちすれば半分成功です。

ステップ2:部下の5因子を理解して、噛み合わせを調整する

続いて、各部下の5因子も把握してみましょう。保全性が高い部下なら、腹落ちできる全体像とプロセスをイメージしてもらうことが必要。拡散性が高い部下なら、遠大なゴールだけ握って“ざっくり”やらせる自由度がカギになる。弁別性が強い部下なら、ニュアンスで察してもらおうとせず、はっきりした言葉で伝えることが必要――など、個性に合わせた接し方を具体的に変えてみてください。
例えば1on1での指示の仕方や、ミーティング時の発言の引き出し方が変わるだけでも、部下が感じるストレスは大きく軽減され、結果として行動が加速します。

ステップ3:補い合う関係を可視化し、「わからなさ」を認め合う

最後に重要なのが、「自分は完璧にわかっているわけではなく、部下の個性を本人や周囲からのフィードバックを通じて常にアップデートしていく」姿勢です。

  • 上司が部下の行動をフォローする際、「こういうところで苦手意識が出るかもしれないから、サポートが必要だね」と言語化する
  • 部下も「上司の弁別性が高いから、ふわっとした解釈のまま伝えるとストレスになる」と理解し、必要な事実情報を用意して提案する

こうした相互理解の蓄積でこそ、FFS理論がいう“異質補完”が成立していきます。「最初からすべてをわかる」上司などいない――そこを認めることが、部下を活かす突破口になるのです。

5.まとめ:「わかっているつもり」を外せば部下も変わる

  • 「部下のことは自分が一番わかっている」と言いながら組織が停滞しているなら、その“わかっている”自体を疑ってみる
  • 上司の成功体験や個性が強いほど、部下に合わない押し付けをしていないか要注意
  • FFS理論の五因子をもとに、部下の行動特性や動機を正しく把握すれば、バイアスから解放され、本当に“部下を活かせる”上司になれる

「自分なりに努力しているのに、どうも部下が動いてくれない」――もしそんな悩みを感じているのなら、まずは“わかったつもりバイアス”を外すことから始めてみませんか。
前回の記事でお話ししたように、スーパースター人材を探すより、いまいるメンバーを活かして“スーパーチーム”を育てたほうが組織は強くなります。その鍵が、上司のコミュニケーションを部下の個性に合わせて変えること。あなたの会社にも「接し方一つで本来の実力をぐんぐん伸ばせる」部下が眠っているかもしれません。

◆お問い合わせ

「FFS理論を活かして部下の個性を知り、上司バイアスを外したマネジメントを実践したい」という方は、ぜひrelate株式会社までご連絡ください。私たちが支援する“異質補完”型の組織改革が、停滞から抜け出す大きなきっかけになるはずです。

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